黒柴「桃」 その壱。

            −売れ残り−
 飛鳥と暮らして五年が過ぎたころ、犬の寿命について考えました。
楽しく過ごせる日々の長さを計った時、ふと昔のことを思い出しました。

 それは、我が家に数羽の文鳥がいたころ、一羽とてもなついていた仔がいて家の中を飛び回り私たちの肩に留まって餌をねだり、手の中で眠っていました。

 そのこが寿命を迎え見送った後、奥さんがペットロスに罹りました。
半年間続いたその病を治した薬が飛鳥でした。

 では、飛鳥がいなくなったら…そうだ、もう一頭いたらショックが和らぐのでは?

 そう思いながらペットショップをうろついていたときに一頭の黒柴が目に留まりました。
 大きな体でショップの小さなゲージから飛び出さんばかりに跳ね回っていました。
 生年月日を見るとすでに半年がたち三万円の価格をつけられていました。
いわゆる売れ残り、当時ネット情報でペットショップで売れ残った子犬たちの悲惨な末路を知っていた私はこの子を連れ帰ることにしました。

 「この仔はショップを転々として少し問題があるようなのですが…。」店員さんの気になる言葉を受けて「何かあれば相談に来ますね。」と言って気楽に家路に着きました。

 我が家にはすでに飛鳥がいるし、少々の問題が起きても対処・解決できるだろうと思っていたのです。


 しかし、家についてしばらくするとその「黒い悪魔」は突然に牙をむいたのです。


                       つづく